第210話『あなたの給料はなぜ上がらないのか(中)』
こんにちは、トラです。
今回は前回(第209話)に続き、給料がなぜ上がらないのかについての文字起こし記事です。
前回は第1の理由「年次昇給」の話でしたが、今回は第2の理由「解雇・減給が出来ない」についての話です。
フランケンラジオ第210話 文字起こし
フランケンの給料が上がらないラジオです。
久々の前半・後半物です。
「なんで死ぬほど頑張っているのに、俺の給料は上がらないんだ」って仰るお子様に、「上げるわけないだろ!」と、上から目線で叩きつけるような話を延々とやっています.
このパターンはいいんですよ。
問題は、給料をあげる側の人間が、この構造を理解していないで被雇用者の頑張りに昇給で報いようとして、長期的に関係をこじらせるケースというのが山ほど散見されます。
なので、構造をもっと皆勉強しようねというようなセミナーでやっている話のサマリーです。どちらにせよ、ひどい話なんです。
前回のおさらい。国策としての年次昇給システム。
給料は労働力再生産のコストに過ぎない、労働時間に紐付いているので内容と関係がない、生産性と給料の間にも関係がない、年を取ると給料は上がります、というのが(あなたの給料が上がらない)第一の理由ですね。
この話をもうちょっと細かく説明したのが57話、終身雇用の崩壊っていう話だったんですよ。
今日はそっち側に振らないで、年次昇給以外に給料が上がらないシステムの成り立ちと、あとは働いた分だけ給料が上がるシステムとは一体何かという話になります。
さて前回の話の最後で、生産性と給料の間には関係がない、むしろね年代別のミスマッチがあるという話をしたんですよね。40代の中盤というのが一番生産性が高く、給料が一番高いのは50代の後半で、30%くらいとそっちの方が高い。
この生産性の違いというのは実は倍ぐらいあって、40代中盤の生産性は50代後半の人たちの生産数の倍ぐらいです。
つまりこの国の平均サラリーマン階層において、50代後半の人たちは不当に高い給料を貰っちゃってるって言えなくもないっていう話だったんですよね。
この構造が国策で行われている歴史については前回お話をした通りです、子供を産めという話ね。
若年労働者は納得が行かないが、雇用者側のほうが切実である
でも、労働者としてはこれに納得がいかない。
「そんな奴らの給料は下げろ」という人もいるかもしれません。
これ実は若年労働者よりも、雇用者側にとっての方が切実な問題になるんです。
なぜなら、一つ一つの企業にとって国策というのは関係ないんですよ。
国がどう考えても、自分の企業が生き残るかどうかには関係ないじゃないですか。
「国策に準じること = 企業にとって効率的な雇用条件」ではないんですよね。
労働者の減給・解雇を規制する法律は2つ。労基法と労契法。
生産性の落ちた高齢労働者を減給解雇できないシステムについて、ちょっとメモ代わりに列記しておきます。
ここをねあの規制する法律が二つ、条項がざっくり四つあります。
法律としては、労働基準法、泣く子も黙る労基法ですね。
もう一つが労働契約法、労契法ですね。名前ぐらいはちょっと聞いたことあると思うんですよ、労基法と労働契約法。
まずもって解雇が自由にならない、解雇が自由にできない法律は、労基法で十九条の「解雇制限」、労働契約法十六条の「解雇権の濫用についての制限」にまとめられています。
労働契約法の十六条では、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇(リストラ)の三つを行うときに、『客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする』とあります。
要はクビだって言っても、「それは認められない、無効ですよ。」って言う権利を認めるということなんですよ。これが労働契約法の16条です
労働契約法
第三章 労働契約の継続及び終了
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
出典:e-Gov法令検索
整理解雇の4要件。必要性、回避努力、合理性、協議。
また労働契約法ではないけれどもリストラについては、整理解雇の4要件というのがあって、法律ではなく判例法のように運用されているんです。
この4要件というのは、
解雇の必要があり、解雇回避の努力をして、人選と手続きが妥当である。
というふうに言われているんですね。これを満たさないと整理解雇できないですよって。
整理解雇の四要件
- 経営上の必要性
倒産寸前に追い込まれているなど、整理解雇をしなければならいほどの経営上の必要性が客観的に認められること。- 解雇回避の努力
配置転換、出向、希望退職の募集、賃金の引き下げその他、整理解雇を回避するために会社が最大限の努力を尽くしたこと。- 人選の合理性
勤続年数や年齢など解雇の対象者を選定する基準が合理的で、かつ、基準に沿った運用が行われていること。- 労使間での協議
整理解雇の必要性やその時期、方法、規模、人選の基準などについて、労働者側と十分に協議をし、納得を得るための努力を尽くしていること。引用元:厚生労働省 静岡労働局
労働基準法、第十九条「解雇制限」と第九十一条「制裁規定の制限」
労基法の19条というのは、リストラじゃなくて何かの理由でポンコツになっちゃった社員をすぐにクビに出来ないっていう、そういうルールを定めています。
具体的に言えばね、怪我とか病気、出産、これを理由に、社員の労働量が落ちたからすぐにクビにする、リストラすることができないようにしているのが、労基法の19条なんですよ。この”すぐには”というところがミソではあるんですけれども、平たく言えば、多少都合が悪いっていう程度ではリストラはできない、ということなんですよね。
労働基準法
第一章 総則
(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
出典:e-Gov法令検索
あと待遇については『減給制裁』、これの規制が労基法の91条ってやつにあるんですよ。
『減給制裁』、要は給料を下げて制裁するということ。
これをできなくする、制裁として減給を使えなくするっていうのが労基法の91条にあります。
簡単に給料を下げようとしても、要は半分にするぞとか給料を5円にするとかって、これは単純に何かのペナルティにして下げるのは『減給制裁』になっちゃうんですよ。
ですからどれだけ下げようとしても、下げる時には10%までしか下げられないんですよ。
100万の人は90万まで、90万の人は81万までしかできないという風に、10%ずつしか下げないというルールです。
そしてそれをずっとペナルティーとし続けることはできないですよ。
いつかはベースラインに戻さなきゃいけない。それでは長期的にはまあ意味ないんですね。
ではベースの給料を下げることができるかっていうと、これは昇格の形で可能といえば可能なんですが、降格人事には理由がなければ、単なる人事権の濫用とみなされるわけなんですよね。降格人事にはちゃんと気をつけなきゃいけない。
労働基準法
第九章 就業規則
(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
出典:e-Gov法令検索
この場合、年を取った人材を一律全員減給ないし解雇するっていうのがテーマですので、全員が減給処分ないし降格されるという組織がありえないと見なされますから、降格人事要素のリストラに使うのは無理なんですよ。
労働基準法第三条「均等待遇」は雇った後の待遇の話。
もう一つ他の待遇について知っておくべき法律としては、労基法3条です。
均等待遇が謳われていて、全て国民は法のもとに平等であって、人種信条性別社会的身分又は門地により政治的経済的又は社会的関係において差別されない。
要はねあの差別すんなよっていうのが労基法の第三条なんです、均等待遇。
労働基準法
第一章 総則
(均等待遇)
第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
出典:e-Gov法令検索
これって、雇用均等の平等の情報じゃなくて、雇った後の差別待遇をしないっていうことなんですね。
ちょっと今日の話と違うような条項に読めるんですけども、トリッキーに効いてしまうことがあるのであえて含んでおきます。
ちょっとまとめますか。
これは人を雇う時に、例えば、「宗教・人種によって差別はいけない」じゃなくて、雇った人間を扱う時に、これを理由に差別しちゃいけないっていうことになってくる。
なので、この3条というのがトリッキーに効いてきちゃうゃうっていうことなんですよ。
僕の聞いた話では、働き始めちゃってからある特定の宗教に入信して、職務内容に徹底的にそぐわないようなライフスタイルになっちゃったパターンがあるんですよ。
ちょっと具体的には言いませんよ。生産性はダダ落ち、だって宗教の自由だからって仕事しないから。ダダ落ちですけど、クビにも減給にもできやしない。そんな事があるんですよ。これを狙ってやる連中ってのが居るとちょっと厄介ですね。
取り上げ始めるとキリがありませんけれど、要するにこんな感じで、給料を下げるというのはすごい大変なんですよ。ベースを上げることが出来ても、下げることが出来ない。
調節性がゼロ、こういったシステムで企業は従業員を雇用しているんですよ。
そうなるとベースの給料の上がり幅っていうのは、最小にしなければ雇用リスクになっちゃう率が高いというのはお分かりいただけるかと思うんですよね。
ちょっと頑張ったからといって、お小遣い感覚で給料のベースを上げるなんていうことは絶対にできない、下げられないわけだから。
ですから、組織の従業員として給料を上げようと思ったら、通常以外のロジックを取り入れるわけしかないんですよ。
この話は別になるので今日はやめときましょうね。
労働者の頑張りに応じた給料システムは、実は雇用者側の願いである。
こんな話をすると、「やっぱり会社の都合で給料が上がらないんだ。年取っただけで昇進したやつがねあの俺の給料を持っていってる」という風に若い人たちは不満に思うかもしれないんですね。
それは主観的には当然そうなのかなって思うんです。
「そうなるとどうして欲しいのさ」って聞くと、みんな「頑張った分給料に反映されるなら、俺はもっと頑張れる」とかっていうふうに思うんですよね。
皆思うでしょ?これ当然だなって。
ここまでをまとめると、
「こんなに頑張ってるのになぜ俺の給料は上がらないのですか?」っていう質問になっちゃうはずなんですよ。この質問は当然の質問ですね。
それに対する明確な回答っていうのは、
「給料はあなたの頑張りに応じて決定されるわけではないからです。だから頑張ってるけれども給料は上がらないというものになるんですよ」
では会社の経営陣にこれを言ってみましょう。「頑張った分給料上げてほしいです」っていう風に提示に行きましょう。
そうすると経営者は聞き返すんですよ。「本当にそれでいいんですか?」っていう風に。
ものすごく勘違いをしている人が多いんですけど、頑張った分が給料に反映されるという、このシステムをやりたいのは実は会社の方なんですよ。
生産性が最大限に発揮されますし、これをやると生産性の高いスタッフのモチベーションも保たれるんですよ。
給料を頑張りに応じて上げられるシステムというのは、辞めてほしくない人間を引き止めることができるから、生産性も上がるし離職率も下がるんですよ。
ですから、会社としてはこういう給料体系に本当はしたい。
プロ野球の年俸分布から、成果主義システムが実現した世界を考える。
これをシステムとして持っているのが、プロスポーツ、例えばプロ野球の世界ですよね。
プロ野球の選手で例えば2019年、これちょっと調べたんですけど面白かった。
942人のプロ野球選手がいます、最大年俸・最高年棒っていうのは巨人菅野で6億5000万 円、2位 がソフトバンクの柳田で5億7000万円。
すごい金額ですよね、これ頑張ったらこんなに給料もらえてスゲーって思うじゃないですか。
じゃあ最低年俸がどうなってるかというと、ロッテ森選手で230万円、230万ですよ。
すごい開きだと思いませんか?菅野が6億5000万ですからね。
まず第一に、頑張りに応じて給料が決まる世界というのは、頑張らなさに応じて給料が下がります。これが前提ですよ、そして、頑張っている人も頑張れなくなると給料が下がるんですよ。
例えば、1年間でのダウン金額ランキングの1位が巨人杉内で4億5000万円ダウン、2位が小笠原で2億9000万円ダウン。
頑張りに応じて給料が上がる世界というのは、こういう世界なんですよ。
頑張らなければ給料が下がる。
大多数のサラリーマンは、法律に守られている。
今日の話の前半に、色々な法律で日本のサラリーマンの給与体系は簡単に下げることができないようにコントロールされてるってこと説明しましたよね。
この法律がサラリーマンの給料を実は守ってくれてるんですよ。
じゃあこのプロテクトが外れると、どんな社会になるのかっていうのをやっていきましょう。
これね、すげー長くなるんで、次回にまとめましょう。
簡単に触りだけを説明すると、プロテクトのない世界、ここでは5人中トップ1人の給料が今の3倍になって、残りの4人は1/3になります。
具体的には、日本の8割のサラリーマンの平均所得が今の441万円から126万円まで叩き落ちます。
このメカニズムについて、次回話していきましょう。
今日のまとめ。頑張りに応じた給料体系にしたいのは、雇用者側の望み。
今日のまとめのキーワードを挙げておきましょうか。
今日のキーワードは、以下の3つです。
- 給料は頑張りに応じて決定されているわけではない
- 頑張ったぶん給料を上げてほしいですと食い下がったら、本当にそれでいいのですかと聞き返されます
- 本当にそうなったらあなたの給料は年収126万円になるから
今日はそんな話でした 。
前後半では終わりません。次回がシリーズ3部作の完結編です。
再びトラです。
これまでなんとなくサラリーマンは法律で手厚く守られている存在だと気づくことができたのではないでしょうか。
最後にさわりだけ言及されていますが、頑張りに応じた給料になる成果主義システムは大多数のサラリーマンにとって不都合なシステムです。次回はそのお話です。